橈骨遠位端骨折とは
橈骨遠位端骨折とは、前腕の外側にある橈骨(親指側の骨)が手首付近で折れる骨折のことです。(下図参照)
特に、転倒して手をついたときに発生することが多いです。
また、日常生活やスポーツ、交通事故など、さまざまな状況で起こり得る疾患です。
この骨折は、小児から高齢者まで幅広い年齢層で見られ、特に10歳前後の子どもや60歳以上の女性に多く発生します。
診断はレントゲンやCT画像で行い、骨折のタイプや重症度に応じて治療方法を決定します。
軽度で骨のずれがない場合はギプス固定で治癒しますが、骨がずれている場合には手術が必要です。
手術では、骨を元の位置に戻し、プレートやピン、ワイヤーなどで固定します。
この骨折は、男性では年間で人口10万人あたり100〜130人、女性では60〜70歳代で300〜400人ほどの割合で発生しており、屋外で起こることが多いとされています。
橈骨遠位端骨折術後のリハビリテーション
術後の運動プログラムについて、いくつかご紹介します。
1. 挙上 (心臓よりも高い位置に保持していく)
手術後は手術した手の部位を心臓より高く上げておくことが原則です。
寝ているときは、枕などを利用して心臓より高く保つことで手のむくみの予防、むくみの軽減に期待できます。
寝ているときだけではなく、座っているときや歩行するときも、下垂せず、できるだけ高い位置に保持することが必要です。
場合によって、歩行時はスリングや三角巾を使用するケースもみられます。
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目的
・術後のむくみ予防
方法
・枕やクッションなどを用意する
・術側の肩甲骨~上肢の下にクッションや枕を敷きましょう
注意点
・心臓より高い位置になっているか確認しましょう
2. 手指の運動(6 pack Hand Exercise)
6 pack Hand Exerciseは、手関節を固定している時に行う手指のエクササイズです。
手指の運動性維持、受傷部周辺の浮腫軽減を目的として、術後早期から自主トレとして行うことが必要です。
6 pack Hand Exerciseの6つの運動メニューを以下にご紹介します。
❶. 矢印(手関節中間位、手指伸展保持練習)
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目的
・手指/手関節の関節可動域の維持/拡大
・総指伸筋、指伸筋、小指伸筋、示指伸筋の筋トレ
方法
・手関節から手指まで脱力する
・手関節から手指まで、 真っすぐに保つ
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
❷. テーブル(手指MP関節の屈曲/伸展運動)
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目的
・虫様筋の筋トレ
方法
・手関節~手指まで真っすぐに保つ
・手関節中間位、手指PIP/DIP関節伸展位の状態で手指MP関節のみ屈伸させる
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・手指MP関節のみ動作させる
❸. かぎ(手指PIP/DIP関節の屈曲/伸展運動)
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目的
・手指DIP/PIP関節屈曲/伸展の筋トレ
・浅指屈筋の筋力強化
・深指屈筋の筋力強化
・虫様筋の筋力強化
方法
・手指MP関節伸展位の状態を作る
・手指DIP、PIP関節の屈曲伸展を行う
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・手指MP関節は伸展位を維持する
❹. にぎり(手指の集団屈曲/伸展運動)
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目的
・握力強化
・前腕筋群の筋力強化
方法
・手指の完全屈曲、伸展を繰り返す
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・完全屈曲、伸展位まで運動する
❺. 手指の外内転運動
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目的
・背側骨間筋の筋トレ
・少指外転筋の筋トレ
・掌側骨間筋の筋トレ
・手指の関節可動域拡大
方法
・すべての手指を伸展する
・手指を外側↔内側へ交互に開閉する
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
❻. 手指の対立運動
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目的
・短母指対立筋の筋トレ
・短母指屈筋、短母指外転筋の筋トレ
・母指CM、MP、IP関節の関節可動域拡大
方法
・親指とその他の指(示指~小指)を順番に合わせる
・一連の動作を繰り返し行いましょう
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
3. バンザイ運動(グー・パー)
上肢の挙上と手指の離握手を組み合わせて行うことで、
術側の肩関節/肘関節/手指の拘縮予防、二次的な廃用症候群/筋力低下予防、むくみの予防に役立ちます。
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目的
・むくみ予防
・二次的な拘縮予防(肩関節~手指)
方法
・【グー】の形を作り、両肘関節を曲げましょう
・斜め上方に向かって、【パー】にしながら両上肢を挙上しましょう
・繰り返し行いましょう
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
4. 手関節の掌背屈運動
橈骨遠位端骨折術後は、特に手関節の拘縮が起きやすいため、手関節の運動は非常に重要となってきます。
運動は自動運動から開始し、医師からの運動指示や疼痛に合わせて他動運動へと切り替えていきます。
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目的
・撓側手根屈筋の筋トレ
・尺側手根屈筋の筋トレ
・長/短橈側手根伸筋の筋トレ
・尺側手根伸筋の筋トレ
・手関節の関節可動域拡大
方法
・手関節中間位から掌屈↔背屈を繰り返す
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
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5. 手首回し(両手組み)
両手を組み、疼痛に合わせて手首をゆっくり、大きく回していきましょう。
他動運動の分類であり、疼痛が出現しやすいため、運動範囲は徐々に広げていきましょう。
一定方向だけではなく、逆方向もしっかり運動する必要があります。
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目的
・手関節の関節可動域維持/拡大
方法
・両手を組む
・組んだ状態で右/左回転、それぞれ大きく回しましょう
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
6. 手関節撓屈/尺屈運動
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目的
・手関節橈屈の関節可動域拡大
・手関節尺屈の関節可動域拡大
・橈側手根屈筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、 長母指外転筋の筋トレ(橈屈)
・尺側手根伸筋、尺側手根屈筋の筋トレ(尺屈)
方法
・手掌を下に向ける
・小指/母指側へ手関節を橈尺屈させる
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・動作中は手関節が背屈/掌屈しないように注意しましょう
7. 前腕の回内/回外運動
前腕の回内/回外運動時は、肘関節より遠位の関節を動かすように意識しましょう。
前腕の運動を行う際は、肘関節を90°に曲げて運動することで、代償動作が出現しにくくなります。
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目的
・前腕回内の関節可動域維持/拡大
・前腕回外の関節可動域維持/拡大
・円回内筋、方形回内筋、 橈側手根屈筋の筋力維持/増強
・回外筋、上腕二頭筋、 腕橈骨筋の筋力維持/増強
方法
・前腕中間位の姿勢を作る
・手掌を下向き/上向き方向へ捻る
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・運動中は肩関節や肘関節を動かさないよう注意
8. ボール転がしストレッチ(手関節の掌屈/背屈ストレッチ)
ボールを転がしながら、手関節のストレッチを行う運動です。
運動時はボールから手掌が離れないようにすること、転がす際は左右にボールがぶれないようにすること、
手関節の動きを意識してもらうことが重要です。
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目的
・手関節掌屈の関節可動域拡大
・手関節背屈の関節可動域拡大
方法
・ボールの上に手を置く
・手を放さず前後にボールを動かす
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
・手関節の掌屈/背屈を意識する
9. いただきますストレッチ(手関節の背屈ストレッチ)
このストレッチは、負荷がかかりやすく疼痛が出現しやすいため、注意しながら行うことが必要です。
胸部から腹部に引き寄せる際は、手掌(手根骨部分)が離れやすくなるため、
ストレッチは、離れてしまいそうな所までに留めましょう。
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目的
・手関節背屈の関節可動域維持/拡大
・手指の関節可動域維持/拡大
・前腕屈筋群のストレッチ、円回内筋、尺側手根屈筋、橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋のストレッチ
方法
・背筋を伸ばし、胸を張る
・顔の前で手を合わせる
・手を合わせた状態で腹部まで引き下げる
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
10. 逆いただきますストレッチ(手関節の掌屈ストレッチ)
このストレッチは、負荷がかかりやすく疼痛が出現しやすいため、注意しながら行うことが必要です。
腹部から胸部に引き寄せる際は、手の甲が離れやすくなるため、
ストレッチは、離れてしまいそうな所までに留めましょう。
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目的
・手関節掌屈の関節可動域維持/拡大
・手指の関節可動域維持/拡大
・前腕伸筋群のストレッチ
・長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋のストレッチ
方法
・背筋を伸ばし、胸を張る
・腹部付近で手の甲をを合わせる
・甲を合わせた状態で胸部まで引き上げる
注意点
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
11. ボール握り練習(握力強化練習)
用意するボールは、固めの物よりもやわらかめの物の方が、運動時の疼痛が出現しにくいです。
握る際は、瞬発的に握り込むのではなく、最終可動域付近までゆっくり握り込んでいきましょう。
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目的
・深指屈筋、浅指屈筋、長母指屈筋の筋トレ
方法
・やわらかめのボールを握りこむ
・握る ⇔ 離すを繰り返す
注意点
・可能な限り握りこむ
・動作はゆっくり大きく行うように注意しましょう
12. 巻き上げ練習(手関節掌屈/背屈運動)
棒を手前に巻き上げる動作を行うことで、手関節の背屈筋力や関節可動域を改善することができます。
また、逆方向(奥の方向)に向かって行うことで、手関節の掌屈筋力や関節可動域の改善にも期待できます。
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目的
・撓側手根屈筋の筋トレ
・尺側手根屈筋の筋トレ
・長/短橈側手根伸筋の筋トレ
・尺側手根伸筋の筋トレ
・手関節の関節可動域拡大
方法
・両手で棒を持つ
・左右交互に棒を手前に巻いていく
注意点
・動作はゆっくり大きく行う
・動作時は手関節を意識する
日常生活動作上の注意点
術後早期は以下のことを行わないように注意しましょう!
・手をついて体重をかける(特に起き上がり、立ち上がり、椅子などに座る場面)
・手すりや壁、ベッド柵などに手をぶつける
・患肢を長時間下垂させる
・重すぎる物を持ち上げる
まとめ
橈骨遠位端骨折の術後リハビリテーションの内容やプログラムの進行は、身体や創部の状態、
骨の回復具合に応じて調整する必要があります。
自己判断で無理をすると再骨折や後遺症のリスクがあるため、
医師や理学療法士、作業療法士の指導の下でリハビリテーションを進めることが重要です。
受傷前の状態まで改善するには、
時間がかかりますが、根気強いリハビリが必要です!
ご紹介した運動プログラムを参考にして、運動を進めていきましょう。
橈骨遠位端骨折に関する自主トレ資料をダウンロード
橈骨遠位端骨折に関する自主トレーニングは以下のページからダウンロードができます。
是非ご活用ください!